JRのきっぷには、特定都区市内制度というものがあります。
長距離のきっぷを購入すると自動的に適用され、「東京都区内」「〇〇市内」のような特定都区市内のエリア内であればどの駅から乗っても問題ありませんし、逆にどの駅で降りても問題ありません。
基本的には便利な制度ですが、注意点としてエリア内では途中下車ができません。
そして、自動的に適用されるものであるため、場合によってはこの制度が弊害となることがあります。
ですが、乗車券発券時にちょっと工夫することで、エリアに含まれる駅であっても途中下車が出来るようになるのです。
今回は、その小技(?)を実践した様子とともに紹介します。
目次
前置き
特定都区市内制度とは
「特定都区市内制度」をざっくり説明すると、主要都市を発着するある程度距離の長いきっぷの場合に適用され、運賃計算は中心駅が基準となり、そのエリア内のどの駅で乗車もしくは下車しても良いというものです。
この制度の詳細や各特定都区市内の対象駅などは、こちらの記事にまとめています。
特定都区市内制度と途中下車
さて、上で紹介した記事にも記載していますが、旅客営業規則第156条には以下のように書かれています。
旅客は、旅行開始後、その所持する乗車券によって、その券面に表示された発着区間内の着駅(旅客運賃が同額のため2駅以上を共通の着駅とした乗車券については、最終着駅)以外の駅に下車して出場した後、再び列車に乗り継いで旅行することができる。ただし、次の各号に定める駅を除く。
(中略)
(3) 第86条及び第87条の規定によって発売した乗車券を使用する場合は、当該乗車券の券面に表示された特定都区市内又は東京山手線内にある駅
(後略)
第86条と第87条は特定都区市内制度についてですが、「東京都区内」を始めとする特定都区市内と「山手線内」では途中下車が出来ません。
きっぷには「券面表示の都区市内各駅下車前途無効」と書かれています。
特定都区市内制度適用の回避と途中下車
ただ、逆に言うと特定都区市内制度の適用をうまく回避することさえできれば途中下車が出来るようになります。
では、どのように回避すれば良いのか。
それは、そのエリア内で終わるきっぷにしないことです(逆方向であれば、エリア内で始まるきっぷにしないこと)。
その例として、あえてそのエリアを超えるきっぷにすることです。
エリアを超えるきっぷにすることでそのエリアはただの通過場所となり、特定都区市内制度は適用されず、途中下車無効のルールも適用されません。
場合によってはきっぷ単体の運賃が高くなってしまうと思いますが、途中下車する駅やその回数によっては得することもあるでしょう。
文字だけだと分かりにくいかと思いますので、次の実践編で詳しく説明しようと思います。
実践編
本章では、2022年(令和4年)7月1日から同月3日にかけて、「東京都区内」の駅までの利用にも関わらず、使用したきっぷが特定都区市内制度を回避したものだったことで「東京都区内」の駅でも途中下車が出来た様子をまとめています。
今回のルートと使用したきっぷ
今回は、以下の画像の青線の経路で行くことを考えました。
上の画像は首都圏での経路のみですが、実際は鹿児島中央駅がスタート地点となっています。
そのため、大都市近郊区間内だけのきっぷではなく、キロ数もかなりの長さとなるため、途中下車ができます。
さて、上の画像の赤丸は途中下車をする予定の駅であり、最後の赤丸である蒲田駅が最終目的地です。
ここで注目すべき点は、着駅の蒲田駅が「東京都区内」の駅であることです。
営業キロが200キロメートルを超え「東京都区内」の駅が着駅となっているため、このまま発券すると「→東京都区内」となります。
そうなると、画像の赤丸がついている池袋駅や新宿駅などの蒲田駅より手前の「東京都区内」に含まれる駅で途中下車が出来ません。
そこで、あえて乗車券の区間を伸ばし「東京都区内」から外れる川崎駅までとします。
そうすることで「東京都区内」着ではなくなるので、「東京都区内」に該当する駅でも途中下車が出来るようになります。
今回の場合、蒲田駅まで(実際には「東京都区内」となるため、東京駅まで)と川崎駅までは同じ運賃であるため、「東京都区内」に含まれる駅でも途中下車が出来る後者のきっぷが得するわけです。
「東京都区内」でも途中下車できると記載しましたが、当然ながらそのきっぷの経路上に含まれる駅であればです。
今回のきっぷで言えば、大久保駅や両国駅などで途中下車が出来るわけではありません。
特定都区市内からどの方向へ伸ばすかは、しっかり考える必要があります。
ただし、旅客営業規則第70条および第159条の規定により、(今回のきっぷで言うと)赤羽・品川間は最短距離(上野東京ライン経由)で運賃計算されていますが迂回することができ、なおかつ途中下車も可能となっています。
実際に「東京都区内」の駅で途中下車してみた
使用したきっぷの区間がかなり長いため、途中を大幅に省略して、川口駅(埼玉県川口市)から書きます。
川口駅から14時28分発の京浜東北線快速・大船行きに乗車して、隣の赤羽駅(東京都北区)まで行きました。
赤羽駅の駅名標の右上に「区」のマークがありますが、それはこの駅が「東京都区内」に含まれることを意味します。
もし川崎駅までのきっぷにしていなければ「→東京都区内」となっていたため、この駅で降りるときっぷは回収されてしまいます。
しかし、「→東京都区内」となることを回避させていたことにより、きっぷは回収されず途中下車が出来るのです。
途中下車は逆戻りなどをしたり有効期限を過ぎたりしない限り何度でも出来るため、池袋駅(東京都豊島区)などの他の「東京都区内」に含まれる駅でも出来ます。
もし「→東京都区内」のきっぷを使用していたら、赤羽駅できっぷを回収されてからは各区間(「赤羽→田端」「田端→池袋」など)で別途運賃が必要であり、より多くの運賃を払っていたことでしょう。
ただ単に一瞬だけ改札を出たかったとかではなく、ちゃんと各駅の周辺で目的があり改札を出る必要があったため、大活躍しました。
そして、日付をまたいで最終目的地である蒲田駅(東京都大田区)に到着しました。
蒲田駅の駅名標にも「区」のマークがあり、「東京都区内」に含まれることが分かります。
隣の川崎駅(神奈川県川崎市)からは、「東京都区内」ではありません。
というわけで、蒲田駅で(途中)下車しました。
初めから蒲田駅までの乗車予定だったので残りの蒲田・川崎間が無駄となってしまいますが、川崎駅までのきっぷにしていなければ「東京都区内」に含まれる駅で途中下車は出来ませんでした。
このように、あえて実際に乗車する区間よりも長くしてエリア外に着駅を設定することで、特定都区市内制度のエリア内途中下車禁止を回避できるのです。
ちなみに(もう1つの特定都区市内制度回避)
今回のきっぷに関して、川崎駅は(神奈川県川崎市の駅で、横浜市ではないものの)「横浜市内」の駅なので「鹿児島中央→横浜市内」となるのではと思われる方がいらっしゃるかもしれません。
ですが、きっぷ上には「鹿児島中央→川崎」と駅名で表示されています。
これは、旅客営業規則第86条の後半部分に該当するからです。
次の各号の図に掲げる東京都区内、横浜市内(川崎駅、尻手駅、八丁畷駅、川崎新町駅及び小田栄駅並びに鶴見線各駅を含む。)、名古屋市内、京都市内、大阪市内(南吹田駅、高井田中央駅、JR河内永和駅、JR俊徳道駅、JR長瀬駅及び衣摺加美北駅を含む。)、神戸市内(道場駅を除く。)、広島市内(海田市駅及び向洋駅を含む。)、北九州市内、福岡市内(姪浜駅、下山門駅、今宿駅、九大学研都市駅及び周船寺駅を除く。)、仙台市内又は札幌市内(以下これらを「特定都区市内」という。)にある駅と、当該各号に掲げる当該特定都区市内の◎印の駅(以下「中心駅」という。)から片道の営業キロが200キロメートルを超える区間内にある駅との相互間の片道普通旅客運賃は、当該中心駅を起点又は終点とした営業キロ又は運賃計算キロによって計算する。
ただし、特定都区市内にある駅を発駅とする場合で、普通旅客運賃の計算経路が、その特定都区市内の外を経て、再び同じ特定都区市内を通過するとき、又は特定都区市内にある駅を着駅とする場合で、発駅からの普通旅客運賃の計算経路が、その特定都区市内を通過して、その特定都区市内の外を経るときを除く。
「山手線内」に関しても、旅客営業規則第87条の後半に同様の内容が書かれています。
東京山手線内にある駅と、中心駅から片道の営業キロが100キロメートルを超え200キロメートル以下の区間内にある駅との相互間の片道普通旅客運賃は、当該中心駅を起点又は終点とした営業キロ又は運賃計算キロによって計算する。
ただし、東京山手線内にある駅を発駅とする場合で、普通旅客運賃の計算経路が、東京山手線内の外を経て、再び東京山手線内を通過するとき、又は東京山手線内にある駅を着駅とする場合で、発駅からの普通旅客運賃の計算経路が、東京山手線内を通過して、東京山手線内の外を経るときを除く。
今回のルートを改めて説明すると、「(静岡県側)→横浜→東神奈川→長津田→八王子→(中略)→蒲田→川崎」となっています。
ここで太字は「横浜市内」に含まれる駅ですが、一度「横浜市内」を出た後に「横浜市内」に戻ってきています。
そのため、規則の「特定都区市内にある駅を着駅とする場合で、発駅からの普通旅客運賃の計算経路が、その特定都区市内を通過して、その特定都区市内の外を経るときを除く」に該当し、「→横浜市内」とはなっていないのです。
最後に
今回は、特定都区市内制度のデメリットのエリア内途中下車の禁止を回避する方法でした。
活躍する場面は少ないかもしれませんが、知っておいて損はないと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。